平成15年5月26日
お客様各位
株 式 会 社 山 喜 農 園
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球根情勢報告
お知らせ
平素よりお引き立ていただきありがとうございます。
例年5月/6月期はオランダ研修旅行(新品種発表会)、当社及び各地で行なっている試験栽培の結果等が出始める時期です。したがって皆様方には多くのFAXや郵便物等をお送りすることになり、やや「うるさい」と感じられる方もおられることと思います。できるだけ郵便等を利用してあまり皆様の負担にならない方法で、可能な限り多くの情報をより早くお繋ぎしたいと考えています。ホームページについても本年1月以降、カラー写真を載せるようになってからは、外国からの30%強のアクセス数も含めて大分増加してきましたが、E-mail/ホームページの方が良いという方は未だ少ないようです。
よろしくお付き合いくださるようお願いいたします。
6月5日〜10日頃が当社試験栽培の透かし百合/L.A.の見頃となると思います。オリエンタル系については、6月末〜7月上旬頃ではないかと思いますがまだわかりません。切下球からの、@2回連続開花試験A切下養成球からの開花試験(国産球の意も含む)B02年産オランダ産開花球からの開花試験と、それぞれ違うコンディションの球根を用いて栽培しています。手前味噌ながら、世界中でも例の無い試験方法ではないかと考えています。1ロットあたりの球数はたった3球ですが、388ロットの試験を行なっています。
他の試験地の結果と併せて、できるだけ正しい品種特性をお知らせできればと考えています。最終的には導入していただいた方々の、各々の立地条件/気象条件/作型の中で、ご自身で見極めていただくしかないのですが導入判断のお役に立てばと思います。是非お越しいただき、ご覧になっていただきたいと思います(写真の印象や外国で見たものとはまったく違うものがご覧いただけると思います)。
近日中に発行予定の文書は、
1)キューケンホフ・リリーパレード ’03年品評会結果(今回同送)
2)’03年5月期・各育種会社発表品種紹介写真(球根市場Hobaho Mr.John Droog氏撮影)(今回一部同送)
3)5月期 球根情勢報告(今回同送)
4)02年オランダ産/国産百合在庫表・03年南半球産/03年オランダ産/国産百合在庫表(今週中FAX発送)
5)I.B.C.発行百合図鑑(一部有料)(来月上旬)
6)Ms Lilyポスター(本年のテーマ・リリーはソルボンヌ/受賞者は川原 亜矢子氏)(希望者)
7)5月12日〜20日 オランダ出張時の写真 |
※整理に時間が掛かります。(7月上旬) |
6月 7日〜10日 〃 |
よろしくお願いいたします。
キューケンホフ・リリーパレード ’03 百合品評会
5月12日〜20日のオランダ出張期間中、恒例の百合品評会が行なわれました。今年は1月〜3月まで大変寒かったのですが、日照量は大変多かったことと、4月中旬以降気温が高かったため、例年に比べて随分違った印象を受ける年となりました。
品評会を中心とした各育種会社の情勢をお繋ぎします。
ヴレッター社
透かし百合
ピンク系の一部に有望と思われる品種がありましたが、特に目立った品種の発表はありませんでした。透かし百合は、L.A.の品質を高めていくためには重要な系統なのですが、ここ数年真面目に透かし百合の育種を行ない続けている会社はこのヴレッター社とデヨング社(育種会社として)だけといってよいと思います。ほとんどの育種会社が、利益を生まない透かし百合の育種規模を大幅に減少させています。この春、埼玉深谷地区において栽培試験を行なった際に、切花農家が「昔の品種に戻っているようだ」という記憶に残るコメントをしてくれています。まさしく現在ヴレッター社の行なっている透かし百合育種は、優秀なL.A.を育成するために優秀な親の系統を作っている、と言っていいほどの状況だと感じました(発表はありませんが、L.A.の新品種発表のために透かし百合育種を継続している会社はあるのかもしれません)。
花の大型化がより進んでいるようです。併せて花色も増加して、花の鮮やかさもどんどん改善されてきています。遅れ馳せながら、ようやく花持ちも意識した品種が発表されてきています(昔の透かし百合の交配親としての見直し)。
鉄砲百合
私自身の目にまったく自信がありませんので、コメントできません。
オリエンタル
2年連続して以前より切花品質が落ちてきているように思います。一昨年の秋から新設の大型温室で品評会用、または育種用の栽培を行なっておりますが、まず土壌条件が以前の土質から見ると落ちているということや(非常に重たい粘土土壌で団粒構造が悪く、気層/液層の無いカチカチの土質)、高性の温室で透光量から空気容積までまるで以前と違っているため、まだ管理上のコツが掴めていないようです。透かし/L.A.のように、そういった環境変化に強いものはなんとかなっても、オリエンタル系はそれらの変化がモロに出てしまっているようです。以前はNo.1の育種家でありNo.1の切花農家といわれていましたが、切花農家という点で少し苦戦しているという印象です(日本における、高知/新潟/岐阜の切花農家が行なっている開花試験の方が、ずっと品種特性が出ていて良いものになっていました)。
そういった中で良い品種を見付けるのは難しかったわけですが、少なくとも白/黄/赤/濃ピンクでは、この会社が発表した品種がやはり総合的に一番だと思います(淡ピンクはわかりません)。ただし、今年の発表品種の中から30ha〜100 haという規模になれる品種は無かったように思います(過去におけるカサブランカ/ソルボンヌ/アカプルコ/マルコポーロのような品種)。近年では、リアルト/コンカドールが大規模栽培品種として生産されていく方向で増産中です。この2品種が大きく失敗しない限り、これらを若干改善した程度の品種では、オランダの球根農家はなかなか新規投資しにくいのではないかと思います。期間中にL.A.のセラダを20ha、オリエンタルのジェノバを20ha発売していました。セラダはおおむね売れたようですが、ジェノバについては5月19日の段階では20haに対し5〜7haほどしか売れていないようです。
この5〜6年、当社取扱い数が1,000,000球を超えないまでも250,000〜700,000球規模の取扱いになった品種がいくつかありますが、それら品種のオランダにおける栽培規模は大体3〜15haほどとなっています。そういった品種群で有望なものは、球根相場のブレも少なく比較的中値安定傾向になるようですし、急に大量に供給されることもありませんから切花農家も安心して計画導入できています。そういった中堅規模の品種がこの会社からも増加してくれればと思っています(03年産でいえはマークリリー社のウェレクアルベルティとオリジナルグループのノバセンブラなど。そして、それがまさしくここ5〜6年のV.Z.社育成種ヒットの最大の要因だったと思います)。
当社におけるヴレッター社の品種シェア率は、ピークの67%(97年産)から見れば大分下がってきてはいますが、依然No.1であることに変わりません。ひたすら「綺麗であること」を第一に新品種を発表し続けていた会社が、花型を若干落としてでも作り易さが強調されるサンテンダーまたはイートンなど(白系オリエンタル/リアルトの次世代)を出してきたことで、少しずつ私達の要望が伝わりつつあるのかと感じました。
昨年11月の国際フラワートレードショーで、高知県のJ.A.高知三里支所のグロリオーサ「ミサトレッド」がグランプリを受賞しました。オランダには植物の品質を審査する専門の協会があり、いくつかの団体から選ばれた者が協会員となり、オランダで開催されるほぼ全ての花の品評会の審査を行なっているそうです(会員数約300名)。様々な花の分野がありますので、部会ごとに分かれていて(32部会)、「ミサトレッド」は総審査対象数1,000数点の中から、部門別に選ばれた60個ある1位の品目の中の最高賞を受賞したわけです。
今回のリリーパレードにおける品評会も、同じ協会の百合部会9名ほどの会員により審査されたものだそうです。ヴレッター社はリリーパレード品評会総合展示分野において十数年間連続で第1位であり続けましたが、今年は3位とランクを下げてしまいました。業界的には「ヴレッター社の一人勝ちの状態よりも、競争があった方が百合産業全体のためにプラスだ」という意見が圧倒的です。ただし展示会のジャッジは、あくまでも9日の夕方から展示飾り付けを始めて、12日の午前中に開花しているステージで最も品質の高い切花、という点が審査されています。品種の価値が審査されているのではないということはご承知おきください。通常は午前中で審査が済みますが、今回は夕方まで掛かってしまうほど意見が分かれた年だったそうです。
リリアンデ社
透かし百合
ほとんど発表されていませんでした。近年ブラックジャックなど限られたマーケット用品種の発表を行なっていましたが、やはりそういった品種は難しいようで、なかなか良品質の球根生産に結び付いていないように感じます(バイラスに弱い、フザリウムに弱い、長期間(5年〜7年間)人気が維持しないため、しっかり投資している球根農家が作ってくれない)。
アメリカの大手育種会社の品種を購入した経緯があります。デジール/グロウなどはセベコの品種ですが、実質この会社(マック社)が普及させたものです。
オレンジデジールという品種が出ていました。苦土欠が出ているようですが、栽培土質を変更すれば改善できるレベルだと思います(グランドパラダイス/ロマノ並という意味です)。花は綺麗で枝振りは極めてセベコデジールに似ており、ゴマが無くすっきりしています。
鉄砲百合
相当数展示されておりました。
オリエンタル
リリアンデ社の場合、現段階ではオリエンタルとO.T.を分けて話さなければならないレベルだと思います。
O.T.
リリアンデ社はマック社とワールドフラワー社が(ともにオランダ北部/北海側に位置しているアンナポローナ郡にある優秀な球根栽培農家で、それぞれ育種会社としても有名です)、その中の育種部門の一部、品種開発/ロイヤリティー販売/プロモーション活動を行なうために共同で起こしている会社です。O.T.ハイブリッドについては主にワールドフラワー社側の開発となっていて、リリアンデ社は先行して販売されたイエローウィン/フチュラ/オラニア/アーリーイエロー/ショッキングなどのロイヤリティー販売をマック社が共同で行なうようになった時から立ち上がった会社です。
その他の育種会社と比較すると、アメリカで育成されたトランペットが多く親として使われているようです。それらの品種(30年近く交配が行なわれていた)はすでに花色も豊富/鮮やかであるのに加えて上向きで咲くものが多く、透かし百合並もしくはそれ以上に早生の品種も多くあるようですこの中から営利栽培家向け球根としての発表も模索しているようです。現段階の日本ではとても評価されることは無いように思えますが、それすら商品化しようとしているわけですので、考えているマーケットは日本/アジアよりも、むしろヨーロッパ/アメリカなのかもしれません。
02年産では、日本国内8ヶ所でこの会社が昨年発表した黄色系O.T.ハイブリッド、イーズリー/マリブ/デイスター/ゴールデンアイ/ダラス(本年ドン・カミーロに名前が変わっていたがダラスに戻します)と5品種試験を行ないました。あくまでも個人的見解ですが、若干花色は淡いもののイエローウィンよりも蕾にボリュームが出て爽やかな印象を受ける、ダラスという品種が残るのではと考えています(何十万球も流通する品種になるという意味ではありません)。その他の品種もそれぞれユニークな点はありますが、イエローウィンを上回るものは無いような気がします。
本年発表となった品種の中には、ヴレッター社が発表しているような草丈の伸び過ぎない、葉も広く花型がコンカドール/コモロ/マニサのような丸弁の品種が発表されていました(例:スパノバ/シュガーアンドクリーム/オーデンセ/キャンドルグロウ/レボリューション/etc…/花色はまだ淡い)。ただし、日本で栽培すればまったくボリュームの出ないイーズリー(側枝が異常に付く。アーリーイエロー並みの早生種奇形花多い)すら、素晴らしい品質で仕上がる温室で栽培されたものですから、実際に栽培してみないことにはわからないと思います。イエローウィンは、種間交配は行なっていますが、復時交配されていないため匂いも強く花色も濃いですが、ヴレッター社の黄色とリリアンデ社のイエローウィンよりも後に発表された黄色系の品種は、すべて復時交配がなされてから発表されてきています。そのため若干花色が薄くなっていますが、O.T.系を発表している育種会社の中で、来年辺りに透かし百合並みの濃い黄色品種を出してくるはずです(多分ヴレッター社の99年産交配種)。
リリアンデ社から黄色だけでなく様々な花色のO.T.種が発表されていますが、その他の花色については現段階で「ユニークです」というコメントしかできません。
球根増産のスピードを考えると、オリエンタル系は1haを生産するのに約25,000〜30,000球の母球を必要とします。透かし百合は約6,000球、L.A.は約2,500〜3,000球くらいの量といわれていますが、O.T./L.O.といった種間交配種は少なくとも透かし百合以上の球数は必要としないだろうと考えています(数値については今後変わってくるかもしれません)。
※今から10年以上前にL.A.が市場に登場したとき、世界の切花農家が挑戦してがっかりさせられたことがありました。たった3年ほど前から大きく品質改善されたL.A.が市場に登場してきたと感じています。オランダの球根農家を取り巻く農業生産情勢や経済情勢を考えれば、今はまだ模索段階で、さらに数年を経てO.T./L.O.といった種間交配種がオリエンタル系のある程度の部分を占めてくるのではと考えます。
オリエンタル
シベリア/クリスタルブランカなどに代表されるように、球根農家にとって作り易くて丈夫な品種を発表した会社であるということと、アメリカの品種が多く親に選択しているということで、綺麗さではヴレッター社に大きく水を開けられていますが、強健さでは時々ヴレッター社の品種を凌ぐことがあります。マック社/ワールドフラワー社ともに優秀な球根栽培農家ですので(彼らがヴレッター社の品種を生産してくれればベストなのですが)、優秀な球根を確保するためにも、この会社の品種群の中から良い品種を見付けたいと考えています(特に夏の作型及び長期冷蔵用品種)。
マークリリー社
透かし百合
八重の品種でバイラス罹病率の低い品種が出ていました。
美的感覚がヴレッター社に似ているということで、綺麗な品種がたくさん出ています。黄色系/オレンジ系は、この会社の品種の方が比較的花持ちが良いようです。
鉄砲百合
相当数の品種が発表されてくるようです(発表品種を販売していく方向のようです)。
オリエンタル
元々あまり日本向きの品種が発表されていませんでした。近年ヴレッター社の弱い花色の部分でいくつか面白い品種が出てきそうです。ウィレクアルベルティ/マレロ/マーロン/フェアリーテールなど、茎の硬さが確保できれば冷蔵保管性の高い品種が(ヴレッター社品種に比べて)多いのがこの会社の特徴なので、良いものが見付かるかもしれません。
バンザンテン社
透かし百合/L.A. /鉄砲百合/オリエンタル
本年は低調でした。他社とは方向性が大分違いますので、来年以降に期待です(L.A.とオリエンタル)。
デヨング社
透かし百合/L.A. /鉄砲百合/オリエンタル
バンザンテン社と同様です。来年以降に期待します(透かしとL.A.)。L.O.系を一生懸命に進めているようですが(V.Z.社も)、O.T.系よりも花をオリエンタルに近付けるのが難しいように感じました。
ビシッフ テュールケン社
透かし百合/L.A. /オリエンタル
ポット品種の交配が真剣のようです。この会社の品種は、基本的に球根生産農家グループが選択した中から購入していった方が無難だと思っています(例:ブロードウェイ/ラマンチャ/ノバセンブラ/ポンペイなど)。
サンデ社
花が綺麗な品種が発表されています。大きな栽培面積になるような品種はありませんが、いくつかチェックしておくべき品種がありました。
総括
品評会全体では、リリアンデ社がはじめて総合分野で1位、マークリリー社が2位、ヴレッター社が3位と、品目別でもヴレッター社が1位になったものが1つも無いということで大変ショッキングな結果でしたが、例えばリリアンデ社の品種は晩性のものが多く、今までは品評会に間に合わせることすらできない方が多かったのが、今年はそれら品種がぴったり間に合うくらい全体的に試験温室の作が早かったということのようです(天候異常)。ヴレッター社/バンザンテン社の苦戦がその辺から来ているように思いました。
注目すべき品種の発表が少ない年でしたが、各育種会社の方向性がクリアに出ていた年だったとはいえそうです。各社共に目指す方向性に合わせた交配親を選択してきているように見えましたし、昨年辺りから優秀な親を得るための育種を始めている会社も出てきたようです。
本年はニュージーランド/チリの出張を取り止めて、再度6月上旬にオランダに出張してきます。
日本向きの良い品種だと思えるものも、良い球根農家、良い輸出業者が世界マーケットを見た中で品種選択していくことがまず最初ですので、そういった生産流通背景も見極めつつ、導入検討していきたいと思います。