平成17年11月25日
オリエンタル系及びスカシユリの栽培技術について
株式会社 山喜農園 森山 勉
1 ユリ類の基礎性質と管理
1)土壌 酸性土壌を好む(pH5.5〜6.5)
透水性のよい且つ水分のきれない環境(団粒化のすすんだ土)
カリ、りん酸分を比較的好む植物(土壌塩基バランスに注意)
a 土壌構造の改善
一般的に火山灰土ではりん酸吸収係数が高く、特にユリ連作地においては経年の投入過多によりりん酸吸収係数が高いといわれる。りん酸吸収係数が高いと土壌の団粒化が進まないと共に、カリの土壌定着率が上がり、カリ過多となる。カリ過多土壌では、カルシューム、苦土の吸収阻害がおきるのでユリ切り花栽培においてはさまざまな栄養障害が発生しやすくなる。これらの一般特性を踏まえ、りん酸吸収係数の低下を図らなければならない。これには畜糞をベースにした完熟堆肥が有功という知見がある。しかしながらユリ切り花連作圃場においては、発根障害、吸収障害を起こすほど土壌の単粒化が極端に進んでいるところがあり、こういった土壌においては、畜糞堆肥で即時効果は得られにくい。
このような場合においては、当面緑肥やピートモス、バーク堆肥などの植物性で繊維の大きい堆肥を利用し、一時的に土壌の気相率をあげ有功微生物の生育環境確保を行ってから畜糞堆肥に移行することが望ましい。その後は畜糞堆肥と植物性の堆肥を交互に用いられるよう土壌が単純化しないよう心がけるべきである。
b 蒸気消毒機の利用
近年普及してきた蒸気消毒機ですが、その土壌消毒効果以上に土壌の理化学性の改善効果が注目されています。従来の改善策のみでは効果が上がりにくかった、成分の偏り補正を、蓄積物を一時的に融解することから比較的速やかに行なうことができるようです。しかしながらあくまで蒸気消毒は土壌改善の補助的役割であり、一時的にはこれのみで効果があるように見えても、長い期間の中で新たな問題を生む場合が見られます。
最近紹介された事例では、蒸気により土中の硝酸態窒素がアンモニア還元され、後に硝酸化成が進むことから、定植直後の発根阻害を受け難く、生育時の養分吸収が進みやすいという報告があります。
2)潅水
a 灌水の考え方
定植の数日前に潅水し、定植時土中はやや湿った状態を維持する。
−>(定植ショックの低減)
発芽初期から展葉開始前まで多めの潅水 −>(球根の保湿維持)
展葉後から着蕾記まで灌水を控えめに −>(発根と上根下層部の伸長)。
着蕾記から出蕾期まで適湿を保つ(土表面が常に湿っているくらい)。
―>(草姿全体のボリューム確保)
出雷以降から分枝初期はやや少なめの潅水 −>(花錐の徒長抑止)
分枝初期から蕾肥大初期まで潅水量を元に戻す −>(蕾の肥大確保)
b 灌水方法の注意・工夫
過湿になると発根、給水を抑制する。
停滞水からの吸収はわずか。
過乾燥状態、過湿状態は土壌構造を壊す。
一回の灌水量を少なく、回数をこまめにおこなう。
水分を控える場合は、灰色に乾いていいのは土壌表面 5mmまでにする(できれば敷き藁等を使い土壌が変色しないよう心がける)。
生育ステージにあわせ、灌水量と回数を調整し土壌表面を適湿に保ち土中水分を変える。
定植1週間前程度に潅水して、高温期にはタイベックなどで遮温、保湿することで定植環境と適正化する。低温期においても潅水による地温低下の回復を待つため定植数日前に潅水を行っておく。これらの準備を十分することで定植後の過剰な潅水が不必要になり、初期の発根不良や生理障害を軽減できる。
伸長生育期に灌水すると軟弱徒長が怖いと考える場合が多いが、灌水量を変化させて節間がばらつくと、茎はより曲がりやすく弱くなる。適切な灌水を維持することが大事である。
3)遮光
寡日照で生育不全、強日照で丈が伸びない。
抑制作型の場合、定植前から遮光する。
遮光率は時期、生育状況によって変える。
定植から展葉まではやや強い遮光が望まれる。
展葉後から出雷、花頚伸長期までは照度の変化が大きくならないように。
蕾肥大期以降は照度が十分になるように。
4)加温
最低地温10℃以上を保つ(上根を痛めないため)。
昼夜温差は12℃以下となるよう管理する(生理障害、軟弱徒長を抑えるため)。
具体的な対応としては、朝方の換気初めをやや早めに行い、涼しい空気に入れ替えることによって、日中時間の施設内室温の上昇を抑える。また夕方の換気終わりをやや早め、地温が十分暖かいうち(落ちる前)に保温する。目標は地温を維持し室温を低くすること。
5)球根 乾燥、過湿ともに厳禁
生育初期萌芽から発根開始までは適温管理
a 解凍
着荷検品後速やかに冷蔵庫へ入庫し、できるだけ低温で時間をかけ解凍し、高い温度に遭遇させない方が望ましい(倉庫での放置は問題外)。
また、解凍後は給水、保湿を心がけ、球根や発芽してくる芽の乾燥がないようにする(冷凍休眠時の球根は乾燥気味になっている)。
b 芽伸ばし処理と栽芽処理
抑制作型にあっては低温庫における芽伸ばし処理が普及している。この処理と促成栽培における栽芽処理を混同する人がいるが、その目的と処理目安は大きく異なるので注意を要する。抑制栽培(高温期定植)における芽伸ばしは初期成育適温の確保と上根発根の促進のため行うが、促成栽培(低温期定植)の栽芽処理はあくまで休眠打破のそろいを良くし、生育期間のばらつきを押さえるために行うものであり、栽芽時に発根部形成を確認できるほど芽を伸ばした場合、定植後の低温で障害の発生率を高めることになる。一方芽伸ばしは前述の目的からわかるように、球根保管状況から生育環境へのもっとも大きな変化を段階的に行うためのものであり、向かう栽培環境にあわせ十分な期間、実際の芽の伸張を行わなければならない。
また、芽伸ばし中の給水、保湿を心がけ、球根はもちろん発芽した芽の乾燥がないようにする。
c 緑化処理
抑制作型における芽伸ばし処理につづいて緑化処理を行なうケースが増えている。
冷蔵状態にあった球根を定植環境に移すまで、環境の違いによるショックをより抑えるため重要な役割を持つと考えられている。実際の実行においては芽伸ばし温度をやや低め(5〜8℃)にし、冷蔵庫からの出庫時はタイベック等で保温保湿した状況で常温環境に移し、温度適応後タイベックを除去し、常温外気に適応させる。その後、適度な期間、葉水等で給水、保湿しつつ光を感じさせることで、芽が緑化すると共に上根の原基が現れたら定植となる。
これらの段階的な処理により生育初期の不調や奇形花の誘発(一般に芽の長さ6cm〜12cmまでに花芽分化は開始される)をできる限り回避するとともに、通称バッタンと呼ばれる障害の予防も行なえる。
6)一般管理
a 防除 環境整備による耕種的防除が基本
生育期間中、最も発病が心配される病害は葉枯れ病
発生害虫はアブラムシが主でその他はほとんど見られない
防除薬剤はその効果と作用を考え、連用を割ける
近年、深谷地区では炭素病の多発生やスリップスの食害が見られる。これはという防除法がない状況だが、農薬取り扱いに慎重さが求められる昨今、周囲環境の整備意外よい方法がないようです。
b 施肥 植物の栄養要求性を考えた要素分量と肥効(Ca移行性)
N・P・Kのバランスをよく(元肥、残肥込みで15kg−allくらい)
Ca、Mgなどの微量要素欠乏の発生が見られやすい
アルカリ土壌ではさまざまな要素欠乏の発生が懸念される
(施肥による土壌塩基バランスの変化に注意)
微量要素欠乏・過剰症状はその要素だけの問題であることのほうがむしろ少ないと考えたほうがいい。
c 栽植密度
透かすユリ 坪100〜120球
LA 坪80〜球
オリエンタル 色物 坪45〜59球(以前坪55〜70球)
カサブ等 坪25〜39球(以前坪35〜40球)
近年オリエンタル系切り花の品質要求は厳しくなっており、柔らかいものはそれだけで市場評価の対象外となってきつつある。また蕾の大きさも重要視されてきている。また日持ちの悪いもの、色が着かないのに蕾だけ割れてくるものなどは極めて評価が落ちるといわれている。これらの改善には何よりも栽植密度を下げることが望ましい。
2 その他