平成16年7月16日
ゆり切花栽培について
株式会社 山喜農園 森山 勉
国内各地で栽培されるようになったオリエンタル系ユリですが、残念ながらその栽培方法は確立されていません。旧来より透かしユリ等の生産があった地域でオリエンタル栽培は始まりましたが、むしろ近年参入した新興産地の生産物のほうが高い市場評価を得ていることからも解るように、旧来からの栽培法では十分ではない、もっと言えば間違っているのかもしれません。 そもそも旧来の栽培が十分な方法であったのかという疑問もあります。ゆりに求められる品質上の完成度は毎年高くなっており、ユリであればよかった旧来の常識は通じなくなっています。今一度ユリ本来の基本に立ち返って栽培を見直す必要があると思います。
1 ユリ類の基礎性質と管理
・土壌 酸性土壌を好む(pH5.5〜6.5)
透水性のよい且つ水分のきれない環境(団粒化のすすんだ土)
作土層下層に停滞水がたまる様ではいけない。
カリ、りん酸分を比較的好む植物(土壌塩基バランスに注意)
・土壌構造の改善
一般的にユリ連作地においては経年の投入過多によりりん酸及びカリ分が過多
となりやすい。
カリ過多土壌では、カルシューム、苦土の吸収阻害がおきるのでユリ切り花栽
培においてはさまざまな栄養障害が発生しやすくなる。これらの一般特性を踏
まえ、K:Mg:Caの要素バランスを整えてゆくとともに、土壌の物理性改善に努め
なくては行けない。土壌の団粒化促進のため、緑肥やピートモス、バーク堆肥
などの植物性で繊維の大きい堆肥を利用し、土壌の気相率をあげ有功微生物の
生育環境確保を行い畜糞堆肥を併用することが望ましい。その後は畜糞堆肥と
植物性の堆肥を交互に用いられるよう土壌が単純化しないよう心がけるべきで
ある。
・蒸気消毒機の利用
近年普及してきた蒸気消毒機ですが、その土壌消毒効果以上に土壌の理化学性
の改善効果が注目されています。従来の改善策のみでは効果が上がりにくかっ
た、成分の偏り補正を、蓄積物を一時的に融解することから比較的速やかに行
なうことができるようです。しかしながらあくまで蒸気消毒は土壌改善の補助
的役割であり、一時的にはこれのみで効果があるように見えても、長い期間の
中で新たな問題を生む場合が見られます。
・潅水
・灌水の考え方
定植数日前に潅水し、定植時土中はやや湿った状態を維持する
−>(定植ショックの低減)
発芽初期から展葉開始前まで多めの潅水 −>(球根の保湿維持)
展葉後から着蕾記まで灌水を控える −>(発根と上根下層部の伸長)。
着蕾記から出蕾期まで適湿を保つ(土表面が常に湿っているくらい)。
―>(草姿全体のボリューム確保)
出雷以降から分枝初期はやや少なめの潅水 −>(花錐の徒長抑止)
分枝初期から蕾肥大初期まで潅水量を元に戻す −>(蕾の肥大確保)
・灌水方法の注意・工夫
過湿になると発根、給水を抑制する。
停滞水からの養分吸収はわずか。
停滞水による下根、根座部への障害もある。
過乾燥状態、過湿状態は上根の活性を停滞させ、土壌構造を壊す。
一回の灌水量を少なく、回数をこまめにおこなう。
生育ステージにあわせ、灌水量と回数を調整し、敷き藁などの土壌被服を併用
しつつ、土壌表面を適湿に保ち土中水分を変える。
伸長生育期に灌水すると軟弱徒長が怖いと考える場合が多いが、灌水量を変化
させて節間及び茎の太さがばらつくと、茎はより曲がりやすく弱くなる。適切
な灌水を維持することが大事である。
・遮光 寡日照で生育不全、強日照で丈が伸びない
抑制作型の場合、定植前から遮光する
遮光率は時期、生育状況によって変える
定植から展葉まではやや強い遮光が望まれる
展葉後から出雷、花頚伸長期までは照度の変化が大きくならないように
蕾肥大期以降は照度が十分になるように
・球根 乾燥、過湿ともに厳禁
生育初期萌芽から発根開始までは適温管理
・芽伸ばし処理と栽芽処理
抑制作型にあっては低温庫における芽伸ばし処理が普及している。抑制栽培に
おける芽伸ばしは初期成育適温の確保と上根発根の促進のために行う。完全に
発根を確認できるほど芽を伸ばした場合、定植後の周囲環境の変化から根の伸
長が停滞することになる。(発根は15mmまで)
・緑化処理
抑制作型における芽伸ばし処理につづいて緑化処理を行なうケースが増えてい
る。冷蔵状態にあった球根を定植環境に移すまで、環境の違いによるショック
をより抑えるため重要な役割を持つと考えられている。実際の実行においては
芽伸ばし温度をやや低め(5℃)にし、タイベック等で保湿した状況で常温環
境に移し、温度適応後タイベックを除去する。その後乾燥状況に適応後定植と
なる。これらの段階的な処理により生育初期の不調をできる限り回避するとと
もに、通称バッタンと呼ばれる障害の予防も行なえる。
・一般管理
・防除 環境整備による耕種的防除が基本
生育期間中、最も発病が心配される病害は葉枯れ病
発生害虫はアブラムシが主でその他はほとんど見られない
防除薬剤はその効果と作用を考え、連用を割ける
近年、特異的に炭素病の多発生やスリップスによる食害被害が見られる。
ともにこれはという防除法がない状況だが、農薬取り扱いに慎重さが求め
られる昨今、周囲環境の整備意外よい方法がないようだ。
・施肥 植物の栄養要求性を考えた要素分量と肥効(Ca移行性)
N・P・Kのバランスをよく(元肥15kg-all位)
Ca、Mgなどの微量要素欠乏の発生が見られやすい
アルカリ土壌ではさまざまな要素欠乏の発生が懸念される
(施肥による土壌塩基バランスの変化に注意)
微量要素欠乏・過剰症状はその要素だけの問題であることのほうがむしろ
少ないと考えたほうがいい。
*土壌環境整備と元肥と追肥は例えば同時期の施用でも常に分けて考える
ようにしたほうがいい。(基本的に土壌環境が整っていればユリにとって
施肥はあまり意識する必要はない。)
・栽植密度
透かす・LA 坪80〜120球
LA(大輪系) 坪75〜90球
オリエンタル 色物 坪45〜70球
カサブ等 坪25〜40球
近年オリエンタル系切り花の品質要求は厳しくなっており、柔らかいものはそ
れだけで市場評価の対象外であり、また蕾の大きさも最重要な評価対象として
扱われている。また日持ちの悪いもの、色が着かないのに蕾だけ割れてくるも
のなどは極めて評価が落ちるといわれている。これらの改善には何よりも適切
な灌水と、それを行なえる土壌ほか外環境の整備を行なうことが望ましい。
2 その他